『軍曹のアウトドア』

            初めての登山は春の八ヶ岳

 無知というのは面白い。知らなければ無謀ができるから。
無謀と言うほど大層な事じゃないけれど、何も予備知識が無い24歳の春、残雪多き
八ヶ岳にチャレンジした。

    


 

 60gザックにいつもの野宿装備を押し込んで、バイクに跨り林道梅ヶ島線、八ヶ岳林道を
走って本沢温泉入り口のゲート手前にバイクを停めた。
 そこからキャンプ予定地の本沢温泉までは専用林道をひたすら歩く。バイクで走ってきた
服装で歩き始めたから、アットいう間に汗でびっしょりだ。今回の服装は日本一周で履い
ていた編み上げ安全靴(バンドの時にも履いている)にジーンズ、\900の極普通の長
袖Tシャツに米軍のM65フィールドジャケットという、とても登山するような姿ではない。
 登山靴も無いし安全靴なら安全だろう・・・・・という安易な気持ちである。


当時の日記から

 本沢温泉にベースキャンプを設営し(ツーリングテントを張ってるのは私だけ)、早速硫黄
岳に向かうが残雪が多く、遙か彼方に見える谷底(そのときはそう見えた)が恐ろしくて、
途中でもう一歩も歩けなくなり、他の登山者の迷惑にならないよう登山ルート脇に四つん
這い
で進み、暫く動けなくなってしまった。誰も助けてくれるわけじゃなし、なんとかルート
に戻らなくてはいけないのだが、怖くて足がでない。またまた見るも無様な四つん這い
攻撃
で、ヒィヒィ言いながらどうにか登山道に戻り、背中を丸め両手を着きながらキャンプ地
に引き返した。よく見ればアイゼンをしてないのは自分だけ。ましてやジーパンに安全靴で
ある。無知というのは危険でもある。

 その夜はビールとウイスキーをしこたま呑んで(アルコールだけは一人前の登山者と同
じくらい飲める)、FMを聴きながら雪の上に寝てしまった。翌朝本沢温泉の山小屋で、アイ
ゼンを借りようと頼むと「使ったことはありますか?」と訊かれ「無いです」と言うと「未経験者
には危険の為、貸し出し出来ません」と言われスゴスゴ退散した。仕方なく露天風呂に入
り、本日の予定を立て直した。

夏沢峠−天狗岳−ニュウ−中山峠−みどり池−本沢温泉

 ・・・・・のコースタイムで8時間から9時間の行程とした。昨日も登ったけど夏沢峠がVery
キツイ! ゆっくり登ればいいんだろうけど、性格上それは許さない。他の登山者を「こんに
ちは」と言いながらバシバシ抜きまくり、遙か前方に次ぎの登山者が見えると「よぉし。次は
あいつをぶち抜くぞ!」と闘志が沸きあがる(今でも登山をするとゆっくり歩けない。ひたす
ら自分の体力の限界まで“走り通す”のである。)。

 天狗岳頂上手前のエッジ部(そのときはそう見えた)で、必殺四つん這い攻撃が出たが
他は残雪深いものの、何とか無事に歩き通す事が出来た。中山峠でカップヌードルの昼食
を取り15:40にキャンプに戻った。オリエンタルカレー(懐かしい)でスープを作り、それ
をつまみにビールを呑む。おっと、昨日のウイスキーもまだ残ってるぜ!
 この夜も正規登山者並に、アルコールを摂取する事だけは欠かさなかった。
 しかし、登山道にたばこの吸い殻、ミカンの皮、キャンディーの包装紙などがたくさん捨て
られていたのには大変残念な思いであった。

 


               

北岳日帰り登頂

 バイクで信州にツーリングへ行ったとき、温泉の露天風呂で地元の登山好きのおじさん
と話をした。そのおじさんが 「北岳はアプローチが長くて日帰りでは登れない」 と言っていた。
 なにゅぅっ!その話を聞いた3秒後には「北岳日帰り登頂」にチャレンジするぞ!と決めた。

 まずは南アルプスの登山地図を買ってきた。広河原から登山を開始するのが最もアプロー
チは短い。コースタイムを見てみると9時間50分となっている(登り始めて下りきるまで)。
 楽勝だ!と思ったね。

 日の長い7月の休日を作戦決行日に選んだ。前の晩に自宅を出発して、朝5時頃から登
り始めた。朝からルートは登山者で賑わっていたので、例によってバキバキ抜きまくる。
 二俣までは大樺沢沿いを緩やかに上っていくが、二俣からは尾根に向かって一気に高度を
稼いでいるので急登となる。5分登って30秒休憩、また5分登って30秒休憩を繰り返す。
そんなキツイんならセオリー通り、ゆっくり登ればいいだろうと思われますが、そうはいかな
いのだ。遙か前方に登山者を見つけると、レースと一緒で「次ぎはあれだ!」と射程距離に入
れ照準を合わせたら、抜かないと気が済まないのだ。

 頂上手前の片ノ小屋に水場があり、補給しようとしたら小屋に置いてあるのは有料だった。
手間を考えれば仕方ないのだろうが、“水場この下”という看板が出ているのに気づき、看板
の指示通り尾根を下り始めた。すぐに水場があると思っていたら下る下る!アッという間に尾
根が見えなくなってしまった。か〜なり下ってやっと水場があった。結構な体力を消費しまし
た。

 頂上には3分もいなかっただろう。証拠写真を撮って早速走り始めた。八本場のコルを左に
折れるべき所を、急ぎすぎていて見失いまっすぐ行ってしまった。チョット怖い場所を慎重にパ
スしてドカドカ下っていくと、次第にルートが怪しくなってきた。人があまり通っていないような
感じになってきたのだった。地図を引っ張り出し現在位置を確認したら、案の定ミスルートして
いた。
 急いで八本場のコルまで戻り、万年雪の雪渓を前にしてひらめいた。 普通の人は雪渓
横の登山道を下っていくのだが、この雪渓を滑って行けば早いだろう。
 まじめに登山道を下っている登山者を横目に、枯枝をブレーキ&ハンドルとして登山靴の
裏で豪快に滑っていった。実に爽快でした。雪渓が終わった所からは、走って広河原まで
戻りました。

 結局14:00頃には広河原に戻り温泉に浸かって帰ってきました。
楽勝でした。

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